高後 裕 × サッポロビール株式会社
研究テーマ:麦芽乳酸菌の腸管組織に対する生理活性の解明と健康食品開発
Bio-Sのコンセプトとリンクした麦芽乳酸菌「SB88」の新機能探索
私たちは以前から、ビールの原料である大麦麦芽・ホップ・酵母に新しい働きを見出すことでの新たな商品開発を模索していました。なかでも私たちが着目したのは、ビールの製造に用いられる大麦に由来する麦芽乳酸菌です。私たちの研究では、試験管レベルにおいて、抗アレルギー性体質改善効果を持つ菌株「SB88」のスクリーニングに成功していました。しかし、実用化に向けた研究を進めるには、もっと基礎的な研究からのアプローチで科学的なエビデンスをしっかりと確立する必要性を感じていました。そんな中で出会ったのがBio-Sプロジェクトでした。北海道で創業した企業として、この地に何か貢献できないかという思いを抱いていた私たちが、北海道の研究機関との共同研究を検討した時、旭川医科大学・高後教授が、「麦芽乳酸菌」の強い生理活性に着目され、腸管保護機能の研究という私たちが進めてきたものとは別の視点からの研究をご提案くださいました。それによって私たちは「腸管免疫」という新しい分野に挑戦する事になりました。私たちがBio-Sでの研究に特に期待したのは、新機能性素材の開発をコンセプトにしているという点でした。今までの健康食品と同じようなフィールドではなく、より進んだ新しい機能を発揮する素材の開発を目指すことは、当社の研究コンセプトに合致しており、強い共感を得たのです。
試験管レベルの実験からヒト試験へ
実際の研究は、弊社所有の数百ある乳酸菌バンクの中から目的にあったものを試験管レベルでスクリーニングし、そのデータをもとに高後教授の特殊な技術で活性の評価をしてもらっています。高後教授の研究室では、動物の臓器を使ってヒトの臨床試験に近いような環境で評価ができる高い技術を持っていらっしゃいます。ですから、動物からヒト試験に移行する中間の段階で、その効果の裏付けができるという点で、スピーディーなヒト試験への移行を後押ししてくれました。
試験管レベル及び動物実験の試験から、麦芽乳酸菌SB88について、腸の炎症に対する菌体の抑制効果が発見され、2009年には特許出願、2010年5月には国際学会(DDW)でその内容を発表しました。また、Bio-S実用化研究枠でのヒト試験では、麦芽乳酸菌SB88を、日ごろから腸が弱く便秘気味な人に30日間にわたり継続的に摂取してもらった所、60%のヒトに便通不良の予防効果がある事が確認されました。
医学部との共同研究によって生まれた新たな価値
医学部との共同研究ができた事はとても大きな一歩になりました。腸管免疫という麦芽乳酸菌の新しい研究アプローチにより素材としての新機能が発見され、大きな付加価値がつきました。特にヒトに対する効果の検証ができたことは大きな収穫でした。今後は、この素材を使って食品への応用を進めていきたいと考えています。
また、非常にありがたかったのは、当社の研究員が旭川医科大へ派遣という形で2年間お世話になり、その技術が当社の研究所でも将来十分に活かされる可能性が生まれました。ひとつのコラボレーションから、新機能素材の開発のみならず、人材育成と研究基盤づくりまで、成果として手に入れることができたと考えています。
北海道に起源をもつ私たち企業と北海道の研究機関とのコラボレーションで、将来的には北海道の商品と言えるものを作り、北海道のパワーをアピールしていきたいと思っています。北海道がもっと元気に活力ある地になる為の貢献になればと考えています。
取材先:サッポロビール株式会社