綾部 時芳 × 株式会社プライマリーセル
研究テーマ:消化管機能評価による機能性食素材開発
研究の背景
医薬品および食品の機能性試験において、動物、特にヒトの細胞を用いた評価が行えることは大きなアドバンテージとなります。その場合、どれだけ生体内の環境を維持した状態で細胞を取得・解析することができるか。それがその評価技術の価値を大きく左右するといわれることから、研究用細胞の供給技術には大きな注目が集まっています。
細胞調製のスペシャリスト
株式会社プライマリーセルは、もともと医薬品メーカー向けに研究用細胞の供給を主事業にスタートした企業ですが、食の重要性や安全性に対する関心が強まってきたこともあり、最近では食品メーカーとの関わりも増えてきているということです。
「細胞を準備できるかどうか、それがすべてです」という平所長の言葉どおり、同社では細胞種にして十数種類、規格としては数えきれないほどの細胞を製造・保管しています。各企業の希望に合わせて、オーダーメイド形式で細胞を供給できることが同社の大きな強み。食の機能評価を重点テーマとして掲げるBio-Sには無くてはならない企業のひとつです。そんな株式会社プライマリーセルが、かねてから最も注目していたのが消化管の細胞でした。
コラボレーションの実現
消化管は体内にありながら外界と接触し、口から摂取した食物、細菌などの物質に常に晒される、いわば食の最前線とも言える特殊な環境にあります。そのため消化・吸収、局所免疫調節、腸管運動調節など多彩な機能を有する重要な器官です。しかし、消化管上皮細胞の培養技術は確立されていないこともあり、他の細胞と比べて研究は遅れていました。
そんな消化管上皮細胞を生体内の状態を維持したままで分離・解析できる技術を確立したのが、北海道大学大学院先端生命科学研究院の綾部時芳教授でした。これによって食の最前線における食品成分等の物質の動きを追うことができるようになったのです。一方、株式会社プライマリーセルは消化管から吸収された栄養分を保持する内臓脂肪細胞を分離・解析する高い技術を保有していました。その綾部教授と株式会社プライマリーセルが共同研究を行うことで、腸管上皮細胞と内臓脂肪細胞の挙動と物質の動きとの連携が見え始めてきたのです。
産学連携の理想の形
現在のサイエンスでは解明することのできない食の効果は数多く存在します。企業側にはこれまで食品製造におけるデータとノウハウが蓄積されていますが、サイエンスが追いついていないものも数多くあるといわれます。北海道を拠点にする優秀な研究者と、それぞれに強みを持つ企業が集まるBio-Sという枠組みを利用した強固な産学官連携の仕組みづくりが進めば、食の機能性評価においてサイエンスイノベーションを起こすことができるという期待が高まっています。同社と綾部教授の連携は、Bio-Sにおける産学官連携によって相乗的にサイエンスが進んだひとつの成功事例として今度もますます注目を集めていくことでしょう。
取材先:株式会社プライマリーセル